快楽亭日乗R　日記的なものという技法

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日記的なものという技法

「失踪日記」「うつうつひでお日記」。
今や日記マンガの大家となってしまった吾妻ひでお。

「僕の小規模な生活」「うちの妻ってどうでしょう？」。
ほのぼの日常マンガの若きエースとなった福満しげゆき。

最近、ふたりの新作が刊行された。
吾妻ひでおの「うつうつひでお日記その後」と福満しげゆきの「僕の小規模な生活（２）」である。

さて。
「土佐日記」を持ち出すまでもなく、日本には古来から「日記文学」というジャンルがある。
一説によると、平仮名の発明が「日記文学」を飛躍的に発展させたらしい。
男性が堅苦しい漢文を用いていたのに対し、女性は平仮名を使って心に移りゆくよしなしごとを綴っていった･･･のか？ホントにそーなん？

そして、現代。
ブログの発明が、これほどまで「日記的なもの」が読まれるようになった理由であることに疑いの余地はない。

見ず知らずのお姉ちゃんや得体の知れない怪しいオヤジ。
まったく無名の人々のブログに、今日も何百何千何万もの読者が群がる。

だからなのか？
吾妻ひでおも福満しげゆきも、現在の状況を良しとしないような記述が見られる。
吾妻ひでおは、単行本のオマケにでもしようと思っていた原稿が「うつうつひでお日記その後」という１冊の本になってしまったことを自虐的に皮肉り、福満しげゆきはことあるごとに、編集者からほのぼのエッセイではなくストーリーマンガを依頼されることを期待している。

プロのマンガ家なのだから、「日記的なもの」ではなく、「プロの仕事」で勝負したいということか？

いやいや。
「日記的なもの」が「本物の日記」と思って騙されてはいけない。
「失踪日記」が暗く悲惨な状況を笑いのエンターテイメントに仕上げている事実。
「僕の小規模な失敗」が持つ、どん底の中でも思わず「ふふり」と笑わせるようなとぼけた味わい。

これ、すべてプロの仕事。
読まれることを前提に書かれた筒井康隆の「腹立ち半分日記」（傑作！）を持ち出すまでもなく、作者の生活のある部分がデフォルメされたり、削除されることで、無類の面白さを秘めた作品として成立している。

文学やマンガだけでなく。
テレビのドキュメンタリー番組も、取材した対象をすべて映し出しているわけではなく、ディレクターが恣意的に切り取った一部分を我々に提示しているに過ぎない。

「セックス，カレー and ロックンロール！」のカンパニー松尾監督による旅情的なアダルトビデオもまた然りである。

「日記」とか「ドキュメンタリー」の持つ生々しさを上手く料理して、エンターテイメントへと昇華させていく。

そもそも「土佐日記」は、紀貫之が女性を装って書いたもの。
いわば「やらせ」「疑似」の日記風エンターテイメント。

吾妻ひでおも福満しげゆきも、今の状況を良しとしないのは･･･
「日記的なもの」という技法に飽きているということなのだろうか？

そーいえば、吾妻ひでおの「うつうつにでお日記その後」はすでにマンガですらなく、イラスト＆ちょっとした文章という構成になってたもんなぁ。

福満しげゆきも「あとがき」で少し自暴自棄っぽくなってるし。

ところで、俺はどうなんだろう？