支配人・竜巻野郎が愛して止まない映画だけを上映する、webの中のミニシアター「快楽座」へようこそ。
今週はウディ・アレン監督の「カイロの紫のバラ」。
ウディ・アレンが創り上げた、大人のためのお伽話。
1930年代、不況下のアメリカ。
職を失い賭け事に興じる夫に代わって、ウェイトレスとして働くセシリア。
マネージャーからは小言を言われ、夫からは小遣いをせびられる日々。
そんな彼女の唯一の楽しみは映画を観ること。
特に気に入った映画は、何度もくりかえし劇場へ足を運んだ。
最近の彼女のお気に入りは、上流階級の生活を描いたコメディ「カイロの紫のバラ」。
いつものように映画を見ていると、映画の中の登場人物トムがセシリアに話しかける。
「よっぽどこの映画が好きなんだね!」
トムはそのままスクリーンから抜け出し、生身の人間として姿を現す。
映画ファンなら一度は夢見る「映画の登場人物」との、現実での対面!
映画館を出て、街を歩く二人。
「映画」から抜け出たばかりのトムには全てが新鮮だ。
一方、トムがいなくなったことにより映画の進行が止まってしまい、他の登場人物は右往左往。
このへんはいつものウディ・アレンらしく、コミカル。
そして、彼女はトムに誘われるままに映画の中に入り込み、夢のようなひとときを過ごす。
ウディ・アレンの映画は映像と音楽のセンスが抜群で、この一連のシーンはとびきりロマンティックに仕上がっている。
しかし、ロマンティックなままで終わらないのがウディ・アレン。
セシリアは思わぬ形で現実に引き戻され、映画はほろ苦いエンディングとなっている。
「ありのままの現実は、あまり見ない方がいい」
ウディ・アレンの「スターダスト・メモリー」で、映画監督サンディ(ウディ・アレン)に映画プロデューサーが語る。
コメディ映画の監督として成功したサンディは、コメディを撮るのを止め、シリアスな映画に傾倒していた。
プロデューサーの言葉は、そのことに対する皮肉だ。
「カンザスで受けるのは、お笑い!1日中トウモロコシ畑で働いた後、シリアスな映画を観たいと思う客はいない・・・」
別のプロデューサーもたたみかける。
映画は、辛い現実を忘れさせてくれて、夢のような世界へ誘ってくれる・・・。
映画を愛しているセシリアが映画を裏切り、そして手痛いしっぺ返しを受ける。
なんという皮肉なエンディング。
それでも、悲嘆に暮れたセシリアが向かうのは「映画館」。
「カイロの紫のバラ」は上映中止となり、フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの「トップ・ハット」がかかっている。
泣きながら二人のダンスを観るセシリア。
やがて、彼女の顔に笑みが戻り・・・。
ウディ・アレンは「アニー・ホール」のラストで、主人公(ウディ・アレン)に、「どんなに恋に失敗しても、自分は恋することを止めないだろう」という独白をさせている。
ウディ・アレンの映画では、大切な物を失った時、その素晴らしさを改めて思い知るという構図が非常に多い。
主人公たちは未練がましく失ったもの(恋人)の尻を追いかけ、絶縁された後も、新たに大切な物を探すことを決意する。
主人公たちがどん底でのたうち回る姿は滑稽だ。
しかし、この「たくましさ」こそが「人間らしさ」なんだと語っているかのようだ。
ところで、誰か
あいだゆあ主演で映画を作ってくれないかな。
スクリーンから出てきてくれるなら、何度でも観にいくで!
「カイロの紫のバラ」
THE PURPLE ROSE OF CAIRO
監督 ウディ・アレン
出演 ミア・ファーロー ジェフ・ダニエルズ ダニー・アイエロ
1985年アメリカ映画 カラー 82分
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